2024年1月から新NISA制度がスタートし、確実に投資への流れは加速している。
巷の投資セミナーはすこぶる活況のようで、私あての個別相談も増えているのが実情だ。まさに投資ブームともいえる。
そんな中、すさまじい勢いで購入されているのが、”オルカン”(=eMAXIS Slim 全世界株式/オールカントリー)だ。
最近は、”お金の増やし方”関連のSNSや書籍でも、「とりあえずオルカンに投資しておこう」という助言が目立つ。
確かに、投資によって資産を増やすためには、株式への投資は避けては通れないし、上手に付き合うべきアセットだ。
ただし、もしも”細かい点はよくわからないけど、みんな良いって言っているから、とりあえず私もオルカンに投資しておこう”と思っている方(もしくはすでに投資した方)には、是非この記事を読んでもらいたい。
”オルカン一択”推奨派があまり触れていないリスクについて言及しているからだ。
”オルカン”の中身をおさらい
オルカンの構成


表1 eMAXIS Slim 全世界株式の月間レポート(2024年1月31日)より抜粋
表1は、SBI証券のHP経由で取得した、オルカンの「月間レポート」の一部を抜粋したものである。オルカンはおよそ6割が米国株式、あとは日本を含む先進国・新興国の株式で構成されており、組入銘柄数はおよそ2,800社に分散されているものの、すべてが株式で構成されているため、比較的リスクの大きいファンドである。
コスト面は極めて優秀
オルカンが爆発的に売れている大きな要因が、とにかくコストが低い点だ。
購入時手数料はゼロ、信託報酬も0.05775%以内と、まさに価格破壊的なインデックスファンドである。
(インターネット販売と対面販売の違いもあり単純比較はできないが、数年前、各銀行や証券会社が顧客に販売していた投資信託は、購入時手数料が2〜3%、信託報酬も1〜2%程度のアクティブファンドが主流だった。)
オルカンをはじめ、このeMAXISシリーズ(三菱UFJアセットマネジメント社)はコストパフォーマンスが高く、私もいくつかのファンドをポートフォリオに組み入れている。手数料が低いことは、運用の成果に直結する重要な要素である。
”オルカン一択”を推奨している人のロジック
資産を増やす術の一つとして、「生活費3ヶ月〜1年程度を預金に残し、あとはすべてオルカン(またはS&P500ファンド)に投資すればよい」という助言は多い。その理由は主に以下になるだろう。
米国の株式市場は上がり続けている

表2 米国S&P500の推移(Google Financeより)
表2は、米国の代表的な株価指標の一つである「S&P500」の推移(1984年〜)である。表を見る限り、日本のバブル崩壊やITバブル、そしてリーマンショックのような大きな経済ショックがあろうとも、長い目でみれば基本的に米国株式は上昇しているといえる。よって、米国株式を中心に「1日でも早く、コツコツ投資するより一括投資した方が利益を最大化できるのだ!」というロジックだ。ポイントは、短期的な株価の値動きに惑わされず、ひたすら持ち続けることが肝要である、ということだ。
オルカン一本で分散投資がなされている
”投資はオルカン一本でOK!”派のロジックとして、「オルカン(オールカントリー)の名の通り、地域や銘柄が多岐にわたるため、分散投資がなされている」という点だ。しかし、オルカンの中身は米国株式が約6割であり、時価総額加重平均型のベンチマークに連動するファンドであるため、簡潔にいうと米国における時価総額の大きい企業の株価に大きく左右される。何より、すべて株式で構成されている以上、たとえ地域が分散されていても基本的に値動き(リスク)が大きい。その点は押さえておくべきだ。
【本記事の結論】 為替リスクを考慮すべし
”オルカン一択”推奨派は、あまり為替リスクに触れていない
本記事で最もお伝えしたいことは、オルカンには為替リスクがあるという点である。”オルカン一択”推奨派の多くが触れていないが、オルカンは外国株式ファンドなので、日本人が投資をする場合、為替の影響を受ける。為替の変動リスクの大きさは、株価の変動リスクに引けを取らない。

表3 eMAXIS Slim 全世界株式の月間レポート(2024年1月31日)より抜粋
表3は、表1と同様に、オルカンの月間レポートから一部を抜粋したものだ。赤枠で示すとおり、基準価格の変動要因として、為替の影響は大きい。足元の株高基調がオルカンの評価額を押し上げていることは間違いないが、足元の円安の動きも評価額を引き上げている大きな要因である点は押さえておくべきだろう。
円高に備えるべき2つのイベント
例えオルカンを構成する株式が20%価格上昇しても、為替が20%円高に振れると、オルカンの評価額はトントンになる。現在、1ドル=150円前後で推移しているが、私はこのまま円安基調が続くとは考えていない。理由は以下の2点だ。
日銀による政策金利の見直し(マイナス金利解除)
マーケットでは、早ければ3月の日銀金融政策決定会合(3/18-3/19)または4月の同会合にて、現在マイナス0.25%となっている日本の政策金利(短期金利)が引き上げられるという声が多い。そうなれば、10~20%程度円高にふれる可能性があると見る。米国では、逆に夏以降の金利引下げ予想が多くを占めており、これもまた円高要因といえる。
”もしトラ”の実現
2024年11月にアメリカの大統領選挙がある。トランプ氏が指名候補争いで連勝を重ねすでに勢いに乗っており、マーケット内やメディアでは”もしトラ”(=もしかしたらトランプが大統領に再選)というワードも飛び交い、関係者はトランプ再選に備え始めている。トランプ氏は保護主義(自国の産業を守る)的であるため、ドル安=円高を容認する可能性が高く、マーケットも大きく動く可能性がある。
オルカンを活用した新NISA投資戦略
着実に資産を増やす基本は、「長期つみたて」
オルカンは為替リスクもあるため値動きが大きい点に触れた。
では、オルカンへの投資はやめた方がいいのか?決してそうではない。オルカンはとても優秀なファンドだ。問題は、最近巷で言われているその投資手法だ。「生活費3ヶ月程度を残し、残りの資産はすべてオルカン一本に投資しよう!」というのは、特に投資初心者にはオススメしない。マーケットが急落した時に、焦って一部を損切りしてしまうのがオチだろう。経験上、何があっても解約せずに持ち続ける(バイアンドホールド)のは、投資初心者にとっては意外と難しい。不安やストレスも溜まるだろう。着実に資産を増やす投資の基本は、長期つみたて投資である。
新NISAの「つみたて投資枠」はオルカン一本でいい
新NISAには、「つみたて投資枠」と「成長投資枠」の2つのコースがあり、どちらも併用可能だ。
この「つみたて投資枠」(年間120万円まで)について、オルカンを活用してみるとよいだろう。私もつみたて投資枠はオルカン一本で埋めることにした。投資額も時間も分散されるので、たとえ値動きが大きいオルカンでも、相場の値動きをあまり気にする必要がない。むしろ、長期つみたて投資の場合、債券100%では資産が増えるまでに時間がかかりすぎてしまう。たとえ少額のつみたてであっても”オルカン一本はちょっと怖い”と思うのであれば、例えばオルカン50%、外国債券50%で設定をしてみる等、オルカンとうまく組み合わせてほしい。
新NISAの「成長投資枠」でうまく分散しよう
新NISAの「成長投資枠」(年間240万円まで)は、つみたて投資枠よりも選べる商品のラインナップが多い。
つみたて投資枠は限られた投資信託のみが投資対象であるのに対し、成長投資枠はさらに多くの投資信託に加えて、個別株やETF(上場投資信託)も投資対象となる。資産に余裕があって、”まずは新NISAの枠の範囲内で投資をしてみよう”という方は、シンプルに成長投資枠もすべてオルカンで埋めてもいいかもしれないが、前述のとおり、①私は為替がやや円高に調整されると考えていること②日本株は相対的に割安であることから、成長投資枠は日本の株式ファンド等を活用している。ちなみに私は一部NISAの投資枠を残しており、4月に日銀の動向を見て、残りの枠をオルカンで埋めるか、日本株を追加するか、もしくはそれ以外のファンドかを決めようと思っている。私の細かなポートフォリオは、別記事で公開していく予定だ。
総じて、私のポートフォリオは株式の比率が高くややアグレッシブなため、投資初心者の方は、例えば米国の債券ファンドを一部組み込む等、もう少し分散してリスクを押さえた方がいいだろう。慣れてきたら、個別株やETFにトライしてみるのもよい。あくまでも余裕資金の範囲内で、たとえマーケットが急落してもオロオロしない範囲の金額で投資をしよう。そうしないと投資そのものを楽しめないからだ。
まとめ
最後に、私の意見をまとめたい。
- 「最低限の生活費を残し、あとはすべてオルカン一本に投資しよう」というロジックは危ない
- なぜならば、オルカンは値動きが大きい株式ファンドであり、さらに為替リスクもあるから
- 日本のマイナス金利が解除されれば円高になる可能性が高く、短期的にオルカンにも下落圧力がかかる
改めて、「よくわからないけどとりあえずオルカンに投資しよう」という投資初心者の方は、上記のとおり短期的には価格が大きく可能性があるので、その点に留意して投資してほしい。そして、たとえ大きく価格が下落してもグッとこらえて保有し続けてほしい。それができる範囲内の金額で、ぜひオルカンへの投資を楽しもう。
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